米アップル、腕時計端末は「ファッション事業」

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFK11H2T_R10C14A9000000/

　グーグルは自動運転車と延命技術の開発に何億ドルものお金を投資している。アマゾン・ドット・コムは無人機による配達の実験を行っている。フェイスブックはバーチャルリアリティーで遊び、太陽光発電を動力とした飛行機でインターネットアクセスを遠く離れた場所へ飛ばしている。

　その一方で、アップルはファッションビジネスに踏み出している。
　一見すると野心の大きさと複雑さの度合いは異なるが、すべてに共通点がある。いずれも、これら巨大企業の業績に大きな影響を与えるまでには何年もかかる長期的な賭けなのだ。

　何年も臆測が飛び交った末に９日、クパチーノで、アップルの新しい時計が最高経営責任者（ＣＥＯ）のティム・クック氏によって披露された。雑誌ヴォーグの編集者や他のファッションジャーナリストなど、発表会に招待された珍しい顔ぶれが物語っているように、アップルは「アップルウオッチ」のことを技術以上のものと見なしている。「機能的でありながら、驚くほど美しいものだ」とクック氏は述べた。

　シリコンバレーの多くの人は未来のＳＦビジョンを前倒しして実現しようとするかもしれないが、同氏によると、アップルはスマートウオッチの健康管理アプリなどを通じて人々の日常生活を助けたり、個人の技術的課題をもっと解決したりするような製品を作りたいという。

　「我々は非常に個人的なものを作りたかった。そうするには腕が格好の場所だと思った」。クック氏は本紙（英フィナンシャル・タイムズ）にこう語った。「この時計で人がより良い日を送る助けになれる。我々はハードウエア、ソフトウエア、サービスの継ぎ目のないイノベーションが必要となるものに関して革新するのが大好きだ」

■大きな利益が見込めるアップルウオッチ
　もしアップルウオッチが「ｉＰｏｄ（アイポッド）」や「ｉＰａｄ（アイパッド）」「ｉＰｈｏｎｅ（アイフォーン）」に少しでも近いような人気を博せば、アップルはそうした技術的な成果だけでなく、大きな利益も上げることになる。

　アップルウオッチは来年初めの発売時、350ドル以上の値段となる。これは多くのアナリストが予想していたより高い価格設定で、革製ストラップのゴールドタイプは値段がもっと高くなる。

　この値段は、アップルの時計を買うことができる顧客の数を制限するかもしれないが、アップルウオッチと互換性のあるｉＰｈｏｎｅを持っている２億人のうち、多くの裕福な消費者は純粋にアーリーアダプターの威信のためにアップルの最新製品にお金を出すかもしれない。「ティム・クックはこの１年、大きなプレッシャーを受けていた」。ＣＣＳインサイトのジェフ・ブレイバー氏はこう言う。「アップルは試してみなければならなかった」

　アップルウオッチを見た後、シティグループは初年度の販売台数が1400万台、２年目は1500万台になると予想する。この数字は、サムスン電子が今年、スマートウオッチとフィットネスバンドを400万台売るというシティの予想を大きく上回り、今後２年間でアップルの売上高に120億ドル貢献することになる。だが、アップルの既存のｉＰｈｏｎｅ事業の巨大な規模からすると、この金額は年間売上高の３％にしか相当しない。

　業績に大きな影響を与える――そして、９日の発表後にアップル株をほぼ横ばいのままにしたウォール街を感心させる――ためには、高価なアップルウオッチを自分の腕にまとうべきだと、アップルは、アーリーアダプターだけでなく多くの消費者を説得しなければならない。

　アナリストらは、アップルの競合企業にはそれができなかったと言う。一部には、アップルは、１年以上前に最初のスマートウオッチを発売した宿敵サムスンに追いつくのが遅かったと非難する向きもあるが、クック氏は「我々は製品の準備ができたと確信したときに出荷する」と語り、ＭＰ３プレーヤーやスマートフォン、タブレットも最初に出したのはアップルではなかったと続けた。

　「デザインはうまくできた」。広告大手ＷＰＰグループの市場調査部門、カンター・ワールドパネルのキャロライナ・ミラネシ氏はこう言う。「アップルはスマートウオッチから技術を取り除いた。これは他社がやっていないことだ。幅広い層にとって、ずっと魅力のある時計にした」

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　多くの人は、アップルは初代ｉＰｈｏｎｅよりずっと多くのアイデアをアップルウオッチに盛り込んだと指摘する。

　調査会社エンビジョニアリングのリチャード・ドアティ氏は「スマートウオッチをたくさん見てきたが、これは本当に磨き上げられている」と言う。

　だが、アップルは同社の有名な「焦点」を失ってしまったと言う人もいる。部分的には宝飾品、スポーツ機器であり、また通信機器、財布でもあり、クック氏によれば「アップルＴＶ」のリモコンでもあるモノを消費者に売ろうとしているからだ。

　技術ブロガーから投資家に転じたオーム・マリク氏は「がっかりさせられた」と言う。同氏が勤めるサンフランシスコのトゥルー・ベンチャーズは、投資先ポートフォリオにフィットネスバンドメーカーのフィットビットを持つ。

　「アップルは２つ、３つの試みをうまくやるべきだったと思う。同社は編集者を欠いている」。開発の後期段階でさえ機能や製品を廃止したアップル共同創業者のスティーブ・ジョブズ氏の役割に言及して、マリク氏はこう付け加えた。

　多くの人は、アプリ開発者のコミュニティーがアップルウオッチを消費者が買うよすがとなる何かを形にすることを期待している。この点では、アップルはアンドロイドの「グーグルプレイ」などの競合アプリストアよりも優位に立っている。クック氏は、消費者向けの発売より何カ月も前にアップルウオッチを発表した理由の一つは、開発者が仕事に取りかかれるようにするためだと述べた。

　「我々がこれまでに見てきたすべてのウエアラブル機器は、使う理由を探し求めていた」とブレイバー氏は言う。「これは長い旅路の一歩だ」